大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)155号 判決 1986年7月31日

控訴人

株式会社エルスリーフード

右代表者代表取締役

木田好夫

右訴訟代理人弁護士

清水武之助

右同

曽我乙彦

控訴人

山崎忠

被控訴人

相銀住宅ローン株式会社

右代表者代表取締役

中嶋晴雄

右支配人

川崎愛大

右訴訟代理人弁護士

横清貴

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴費用は控訴人株式会社エルスリーフードの負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、控訴人ら

「一、原判決を取消す。二、被控訴人の請求を棄却する。三、訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決。

二、被控訴人

「一、本件控訴を棄却する。二、控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決。

第二、当事者の主張、証拠

当事者の主張、証拠の関係は原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する(但し、原判決二枚目裏八行目の「行い」と、同三枚目表一二行目の「被告ら間」を「被告らの間」と、同末行の「貸借」を「貸借契約」と訂正する)。

理由

一、当裁判所も原判決と同様、被控訴人の控訴人らに対する請求を全部認容すべきものと判断する。その理由は以下のとおり訂正、附加するほか原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

原判決五枚目表三行目の「価額が」を「価額は」と、同五〜六行目の「存在によつて……」から「……以上」までを「存在によりこれが減価する以上、その減価評価額の多寡にかかわらず」と訂正する。

二、民法三九五条但書は短期賃貸借が「抵当権者ニ損害ヲ及ホス」ときは裁判所はその解除を命じうる旨定めている。

担保権である抵当権と用益権の調和の趣旨に照らし考えると、抵当権実行による競売がなされた場合の競売代金が抵当権の被担保債権を弁済するに足るときには賃貸借の存在は何ら抵当権を妨害するものではないが、その賃貸借の存在が抵当不動産の代価を減価させ被担保債権額に達しないため抵当権者がその完全な弁済を受けられないときは抵当権を妨害するものであつて、前同条但書にいう「抵当権者ニ損害ヲ及ホス」ときに該るというべきである(大審院判決大五・五・二二民録二二輯一〇一六頁、最高裁判決三四・一二・二五民集一三巻一三号一六五九頁参照)。

三、本件において原判決認定のとおり本件賃貸借の存在により本件不動産の価額が減価するものであり、もともとその価額が被担保債権に満たない本件のような場合にはこの減価によつてその弁済を受け得る額がさらに減少し抵当権者に損害を及ぼすことは明らかである。

控訴人らは前示の「抵当権者ニ損害ヲ及ホス」というにはこのほかに賃貸借が正常のものでないことを要する旨主張するけれども、抵当権者が予め賃貸借の存在により自己の配当額の減少を確知して抵当権を設定したことなど特段の事情がない限り、前示のような事実があれば抵当権者に損害を及ぼすものというべきである。

なお、原判決挙示の証拠、弁論の全趣旨によると、抵当権者たる被控訴人は控訴人山崎に対し昭和五九年一二月一四日占有移転禁止現状維持の仮処分を執行した後、控訴人エルスリーフードが本件建物に立ち入り占有を開始してラーメン屋を始めたこと、同控訴人は被控訴人の抵当権設定に後れて本件土地建物に昭和五九年一〇月二四日受付で後順位の賃借権設定請求権仮登記をしたものであることが認められ、これらの事実及び弁論の全趣旨を考え併せると、控訴人らの間の本件賃貸借はいわゆる抵当権設定後の単発の賃借権仮登記による濫用的賃貸借として抵当権の実行を妨害する類のものであることが推認でき、他に右認定を覆すに足る証拠がない。

したがつて、本件賃貸借は前示減価による被担保債権の弁済額減少のほか右認定の濫用的賃貸借類似のものであることに照らしてもこれが抵当権者に損害を及ぼすものであることが明らかである。

四、よつて、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを失当として棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、九三条二項、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官廣木重喜 裁判官諸富吉嗣 裁判官吉川義春)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例